サンプル記事

練習だけでは勝てない理由──競技力を高めるためのウェイトトレーニングの考え方

はじめに:Know How より Know Why

「このトレーニングがいいらしい」「あの選手もやっているらしい」。 そんな“ノウハウ”に飛びつく前に、本当に大切なのは**「なぜそれをやるのか」**という理由(=Know Why)です。

SNSや動画で情報が溢れる今、知識を得ることは非常に簡単になりました。トレーニングの方法や最新メニュー、有名選手のルーティンなども、すぐに調べることができます。しかし、それらを「なぜやるのか?」という文脈で理解している人は、意外と少ないものです。目的があいまいなままトレーニングを続けても、効果は薄く、時に逆効果になることもあります。

アスリートとして強くなるために必要なのは、単なる模倣ではありません。 目的に合った手段を選び抜く力です。自分の現在地と目標の距離を見極め、最適なルートを選び続ける「判断力」こそが競技力を伸ばします。流行や周囲の意見に流されず、自分の課題と向き合う姿勢が、成長への鍵となるのです。

トレーニングを“やらされる作業”で終わらせず、「なぜやるのか?」を自分で考えること。これこそが、競技力向上の第一歩であり、アスリートとしての原点となるはずです。


練習とトレーニングの違いとは?

アスリートが日々取り組む「練習」と「トレーニング」。 一見似ているようで、実は明確な違いがあります。 それぞれの役割を理解することで、競技力は飛躍的に高まります。

練習の目的は「技術の向上」

練習では、競技特有のスキルや判断力、戦術的な動きを反復し、試合でのパフォーマンス精度を高めます。パスやシュート、レシーブなどの基礎動作を繰り返し、身体に定着させるのが目的です。チーム競技であれば連携や戦術理解、個人競技であれば集中力や状況判断力を磨く時間でもあります。

トレーニングの目的は「体力の向上」

一方、トレーニングは、筋力・柔軟性・持久力・瞬発力など、競技の土台となる身体的能力を養う時間です。練習が“技術を磨く場”なら、トレーニングは“その技術を支える身体をつくる場”。体幹の安定性や可動域の改善、筋力の強化などが、怪我の予防や動作の安定に直結します。

技術と体力はどちらも欠かせない要素です。これらは競技力を支える両輪であり、どちらか一方だけでは限界があります。両者をバランスよく取り入れ、明確な目的を持って取り組むことが、真の成長につながるのです。


トレーニングの本質とは?

私が現場で最も大切にしている言葉があります。

「練習だけではできないことを補うために、練習とは別に行うもの」

これこそが、トレーニングの本質です。

練習では鍛えきれない身体的な弱点、筋力のアンバランス、柔軟性の欠如、姿勢の乱れ──それらを補うのがトレーニングです。「練習しているのに伸びない」「怪我が多くて継続できない」という悩みを抱える選手ほど、トレーニングの重要性に気づくべきです。

トレーニングは、単なる筋トレではありません。選手として長く活躍し続けるための“裏側の努力”であり、競技人生の寿命を伸ばす土台です。継続的に結果を出している選手ほど、この土台作りに真剣に取り組んでいます。


怪我を防ぐには?最も効果的な手段とは

「ストレッチをすれば怪我は防げる」──よくある誤解のひとつです。

もちろん、ストレッチには筋肉の緊張を緩めたり、リラックス効果をもたらす利点があります。しかし近年の研究では、ストレッチ単体で怪我を防ぐ効果は限定的であることが明らかになってきています。

スポーツ現場でも「毎日ストレッチしていたのにケガをした」というケースは少なくありません。実際、ハードな動きや接触、瞬時の判断が求められる競技では、筋肉の“強さ”や“反応速度”が怪我予防に直結します。

答えは──ウェイトトレーニングです

ウェイトトレーニングで得られる筋力は、まさに関節や腱を守る“鎧”。動作の安定性、制動力、衝撃への耐性は、筋肉が担っています。また、神経系の反応が鍛えられることで、転倒や急な方向転換などに対する対応力も高まります。


科学的に実証された代表的トレーニング

  • ノルディックハムストリングス:  もも裏の筋肉(ハムストリング)を鍛え、肉離れや膝のケガを予防。ジャンプやダッシュの多い競技で特に有効。
  • コペンハーゲンアダクション:  内転筋を強化することで、股関節の安定性を高める。横方向の動きや切り返しが多いスポーツに効果的。
  • カーフレイズ:  アキレス腱や足首のトラブルを予防。ふくらはぎを鍛えることで、ジャンプ・ランの推進力と着地の安定性が向上。

これらは科学的な裏付け(エビデンス)があるトレーニングであり、多くのチームやトレーナーが実践しています。選手の健康を守るためにも、基本的なものから積極的に導入していくことが重要です。


ウェイトトレーニングの競技力への影響

ウェイトトレーニングが競技力に与える影響は計り知れません。

  • 怪我をしにくい体づくり:筋肉や関節の耐久性向上
  • 練習の継続性が向上:離脱リスクの低下により、出場機会や成長チャンスを逃さない
  • 技術習得スピードが上がる:身体能力が高ければ動作の再現性も高まる
  • メンタルの安定と自信の強化:トレーニングによる成長実感が、試合時の心の安定にもつながる

つまり、ウェイトトレーニングは「勝つ確率を上げるための戦略的手段」なのです。


トレーニング3原理・5原則の活用

トレーニングには原理原則があります。その中でも重要なのが漸進性過負荷の原則

これは、体を成長させ続けるには「少しずつ負荷を上げ続ける必要がある」という考え方です。

具体的な方法:

  • 重量を上げる
  • 回数・セット数を増やす
  • 可動域を広げる/テンポを遅くする
  • インターバルを短くする

競技や目的に応じて、どの方法を採用するかを選ぶことが重要です。瞬発力系の競技にはスピード重視のリフト、持久力重視なら回数・セット数やレスト調整が効果的。


まとめ:競技力を支える“裏の努力”を惜しまない

練習だけでは超えられない壁があります。 それを乗り越えるために、戦略的なトレーニングの導入が必要です。

トレーニングとは筋肉を鍛えることではなく、課題を見つけ、克服するための手段。自分の可能性と真摯に向き合う過程で、選手としても人間としても成長していくことができます。

競技力を高めるとは、フィジカル・メンタル・戦術のすべてを整えるということ。ウェイトトレーニングは、その土台づくりを担う最も実践的な手段の一つです。

今日から意識を変え、身体と向き合う時間をつくることで、未来の自分に差がつく。そんなアスリートが1人でも増えてくれることを願っています。